去年の九月下旬、私は紅葉が色づき始めた奥多摩の静かな山道を一人で歩いていましたが、その時経験した出来事は、オオスズメバチの巣がいかに静寂の中に牙を隠しているかを私の心に深く刻み込むことになりました。尾根を越えて湿った斜面を下りていた際、ふと足元で「ブーン」という、地鳴りのような重低音が響き渡り、反射的に足を止めた私の視界に入ってきたのは、登山道の脇にある古い切り株の根元に開いた、何の変哲もない小さな土の穴でした。そこから体長四センチメートルを超える巨大なオレンジ色の顔をしたハチが次々と這い出し、空中でピタリと静止するホバリングを行いながら、明らかに私を射程に捉えて威嚇を開始したのです。これこそがオオスズメバチの巣の入り口であり、私の足音が地中の要塞に響き渡り、彼らの防衛スイッチをオンにしてしまったのだと直感した瞬間、私の全身には冷たい戦慄が走りました。私はパニックになりそうになるのを必死に抑え、ハチの目を直視しないよう顔を伏せ、ゆっくりと、しかし確実に後退を始めましたが、その間もハチは大顎を「カチカチ」と鳴らす特有の警告音を立て、私の周囲を旋回し続けていました。後で調べて知ったことですが、オオスズメバチの巣は地中深くにあるため、一度激昂させてしまうと逃げ場がなく、興奮した数百匹の群れが地底から湧き出してくるため、あの日もし私が手で払ったり大声を上げたりしていたら、私は間違いなく無数の針の洗礼を受けていたはずです。彼らの毒は「毒のカクテル」と呼ばれ、激痛だけでなく組織を壊死させる成分まで含まれており、一刺しでアナフィラキシーショックを招くリスクがあることを思えば、あの時の判断はまさに生死を分ける分岐点でした。山林に住む彼らにとって、人間は自分たちの王国を脅かす巨大な侵略者に過ぎず、営巣場所である地中の暗闇を守るために、彼らは数億年の進化で磨き上げた最強の武器を惜しみなく振るいます。この遭遇以来、私は山を歩く際に視線を前方だけでなく、常に「足元の不自然な穴」へと向けるようになりましたし、黒い装備を一切排除し、白一色のウェアで身を固めるようになりました。オオスズメバチの巣は、自然の美しさの影に潜む非情な掟を体現した存在であり、私たちはその結界を侵さないための謙虚な警戒心を持ち続けなければ、いつの日か再びその「死の門」を叩いてしまうことになるのだと、静まり返った森を思い出すたびに自分に言い聞かせています。
登山道に潜む死の門とオオスズメバチの恐怖