家の中を隅々まで調べ、考えられる全ての発生源を徹底的に清掃した。排水口はもちろん、浴槽のエプロン内部も、洗濯パンも、観葉植物も、全て完璧なはず。それなのに、なぜか毎日、数匹のチョウバエが、まるで挨拶をするかのように、浴室の壁に現れる。もはや、家の中に発生源はないはずなのに。この、まるで超常現象のようにも思える不可解な謎には、実はいくつかの合理的な説明がつく可能性があります。その謎を解く鍵は、「侵入経路」と「時間差」という、二つのキーワードに隠されています。第一の可能性は、「発生源が、あなたの家の中ではない」というものです。特に、マンションやアパートといった集合住宅の場合、発生源が、隣や階下の部屋、あるいは建物の共用部分にあるケースが考えられます。例えば、下の階の住人が排水口の掃除を怠っていたり、あるいは長期不在で排水トラップの水が干上がっていたりすると、そこで大発生したチョウ-バエが、共用の排水管を伝って、あなたの部屋の排水口から侵入してくるのです。この場合、いくら自分の部屋をきれいにしても、大元を断たない限り、侵入は止まりません。また、家のすぐ外にある、道路の側溝や、雨水マス、あるいは浄化槽などが、外部の発生源となっている可能性もあります。そこから羽化した成虫が、網戸の隙間や、換気扇などを通って、毎日新たに侵入してきているのです。第二の可能性は、「駆除のタイムラグ」です。あなたが徹底的な清掃を行い、発生源となっていた幼虫や卵を根絶したとしても、その清掃を行う「前」に、すでに蛹になっていた個体がいるかもしれません。蛹は、殺虫剤やパイプクリーナーが効きにくい、硬い殻に守られています。そのため、清掃作業を生き延びた蛹が、数日後に羽化して、成虫として現れることがあるのです。この場合、新たな繁殖がなければ、数日から一週間程度で、その姿を見ることはなくなるはずです。発生源がないのにチョウバエがいる、という謎に直面した時は、まず、外部からの侵入の可能性を疑い、侵入経路となりそうな隙間を塞ぐ。そして、もし数が徐々に減っていくようであれば、それは蛹の時間差攻撃である可能性が高いと判断し、もう少しだけ、様子を見てみる。その冷静な観察眼が、不可解な謎を解き明かすための、最も重要なツールとなるのです。