ねずみのふんがもたらす健康被害は、サルモネラ症などの感染症だけではありません。特に、小さなお子様や、もともとアレルギー体質の方がいるご家庭にとって、より身近で、そして長期的な問題となるのが、ねずみのふんや尿が原因で引き起こされる「アレルギー疾患」です。家の中にネズミがいるという事実は、喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎といった症状を、新たに引き起こしたり、悪化させたりする、深刻なリスク要因となるのです。アレルギー反応を引き起こす原因物質のことを「アレルゲン」と呼びますが、ネズミに関連するアレルゲンは、一つではありません。まず、ネズミのフンや、乾燥して空気中に飛散した尿の粒子そのものが、強力なアレルゲンとなります。これらの粒子は、非常に小さく軽いため、人の動きや空気の流れに乗って、ハウスダストの一部として家中に広がり、私たちの呼吸と共に、体内に入り込んできます。そして、体の免疫システムが、これらの物質を「異物」と認識し、過剰に反応することで、くしゃみや鼻水、目のかゆみ(アレルギー性鼻炎・結膜炎)や、気管支の炎症による咳や呼吸困難(気管支喘息)といった症状を引き起こすのです。さらに、問題はネズミ自身だけにとどまりません。ネズミの体には、多くの場合、「イエダニ」という、別の強力なアレルゲンを持つ寄生虫が、大量に付着しています。ネズミが家の中を徘徊することで、このイエダニが室内にばらまかれます。そして、ネズミのフケや、巣の材料となるホコリなどを餌にして、さらに繁殖を繰り返します。イエダニの死骸やフンもまた、非常に強力なアレルゲンであり、喘息やアトピー性皮膚炎の、主要な悪化因子として知られています。つまり、家の中にネズミがいるという状況は、「ネズミ由来のアレルゲン」と、「イエダニ由来のアレルゲン」という、二つの強力なアレルゲン爆弾を、常に抱えているのと同じことなのです。原因不明の咳やくしゃみが続いたり、お子様のアトピーが悪化したりしている場合、その影に、見えないネズミの存在が隠れている可能性も、十分に考えられるのです。