これは私が実際に体験したある夏の出来事です。築年数の古いアパートに引っ越した当初私は毎晩のように現れるゴキブリに悩まされていました。台所の電気をつけるとカサカサと逃げる黒い影。殺虫剤を片手に格闘する日々で神経はすり減る一方でした。そんなある夜窓ガラスの外側に一匹のヤモリが張り付いているのを見つけました。最初は「うわっ、爬虫類か」と少し引いてしまったのですがよく見るとつぶらな瞳をしていて動かない様子はどこか置物のようでもありました。ネットで調べると「家守」と言われ害虫を食べてくれると知り私は彼を追い払わずにそのままにしておくことにしました。勝手に「ヤモちゃん」と名付け心の中で警備員として任命したのです。それから数日後驚くべき光景を目にしました。ベランダの隅でヤモちゃんが自分と同じくらいの大きさがあるチャバネゴキブリを咥えている現場に遭遇したのです。彼は必死に暴れるゴキブリを強力な顎で押さえ込み少しずつ飲み込んでいきました。その野生の営みを目の当たりにして私は感動すら覚えました。それからというもの不思議なことに室内でゴキブリを見かける頻度が目に見えて減っていきました。以前は週に3回は遭遇していたのが月に1回見るか見ないかというレベルまで激減したのです。もちろん私が並行して行っていた掃除やゴミ出しの効果もあったのでしょうがヤモちゃん(あるいはその仲間たち)が家の周りで侵入しようとするゴキブリを水際で食い止めてくれていたことは間違いありません。秋になりヤモリの姿を見かけなくなると少し寂しささえ感じました。翌年の夏もまたヤモリが現れましたがその頃には私のゴキブリ恐怖症もだいぶ和らいでいました。「彼らがいるから大丈夫」という安心感が生まれたからです。この体験から私はヤモリを単なる爬虫類としてではなく共に家を守る頼もしい相棒として見るようになりました。もしヤモリを見かけてもどうか邪険にしないでください。彼らはきっとあなたの平穏な生活のために戦ってくれているのですから。