我が家とチョウバエとの、長くて陰鬱な戦いが始まったのは、二年ほど前の梅雨の時期でした。最初は、浴室の壁に数匹が止まっているだけでした。しかし、その数は日を追うごとに増え、市販のコバエ用スプレーを撒いても、その場限り。翌日にはまた同じ数のハエが、まるで嘲笑うかのように壁に張り付いているのです。私は、インターネットで得た知識を元に、徹底的な対策を開始しました。まず、最大の容疑者である、浴室の排水口。パイプクリーナーを丸ごと一本流し込み、柄の長いブラシで、手が届く限り奥までゴシゴシと磨き上げました。しかし、効果はなし。次に疑ったのは、洗面所の排水口。ここも同様に、徹底的に洗浄しました。それでも、チョウバエは消えません。私は次第に、ノイローゼ気味になっていきました。夜、寝る前に、浴室の壁をスプレーで全滅させ、朝、恐る恐るドアを開けて、再び現れた彼らの数を確認するのが、憂鬱な日課となりました。もう、私の手に負えるレベルではない。そう悟った私は、ついにプロの害虫駆除業者に助けを求めることにしました。駆けつけてくれた作業員の方は、私のこれまでの奮闘を静かに聞いた後、一つの可能性を指摘しました。「もしかしたら、浴槽のエプロンの内側かもしれませんね」。エプロン?ユニットバスの側面についている、あのカバーのことでした。そんなものが外れるなんて、考えたこともありませんでした。作業員の方が、専用の道具を使って、いとも簡単にそのカバーを外した瞬間、私は言葉を失いました。カバーの内側、そして浴槽の下の床には、長年蓄積されたであろう、髪の毛や石鹸カスが混じり合った、黒いヘドロがびっしりと広がっていたのです。そして、そのヘドロの上を、おびただしい数のチョウバエの幼虫が、うごめいていました。まさに、地獄絵図でした。そこが、私の二年間にわたる戦いの、本当の震源地だったのです。高圧洗浄機によって、長年の汚れと、それに巣食う幼虫が一掃された翌日から、あれだけしつこかったチョウバエの姿は、嘘のように一匹も現れなくなりました。この一件は、私に、問題の本当の原因は、しばしば最も見えにくい、そして最も見たくない場所に隠されている、という、人生の教訓を教えてくれたのです。