数ある食中毒の中でも、特に発生件数が多く、身近な存在である「サルモネラ症」。その原因菌であるサルモネラ菌は、主に鶏肉や卵に付着しているというイメージが強いですが、実は、私たちの家庭環境においては、「ねずみのふん」が、極めて危険な感染源となることをご存知でしょうか。家の中にネズミがいるという事実は、食中毒のリスクと常に隣り合わせであるという、重大な警告なのです。サルモネラ菌は、多くの動物の腸内に生息している細菌であり、ネズミもまた、その主要な保菌動物(キャリア)の一つです。菌を保有しているネズミは、特に症状を示すことなく、フンや尿と共に、大量のサルモネラ菌を体外に排出し続けます。そして、そのネズミが、夜間に私たちのキッチンを徘徊し、調理台の上や、まな板、包丁、あるいは出しっぱなしになっていた食器の上などを歩き回り、そこにフンや尿を排泄したとします。すると、その表面は、目には見えませんが、サルモネラ菌によって完全に汚染されてしまうのです。もし、私たちがその事実に気づかず、汚染された調理器具で料理をしたり、汚染された食器で食事をしたりすれば、サルモネラ菌は容易に私たちの口に入り、体内へと侵入します。体内に侵入したサルモネラ菌は、腸内で増殖し、食後、半日から二日程度の潜伏期間を経て、激しい腹痛や、下痢、嘔吐、そして三十八度以上の高熱といった、急性胃腸炎の症状を引き起こします。通常は、数日で回復しますが、抵抗力の弱い子供や高齢者の場合は、菌が血液中に入り込んで重症化(菌血症)したり、脱水症状で命に関わったりすることもあります。また、汚染されたのは調理器具だけではありません。ネズミがかじった食品の袋の穴から、フンが内部に混入する可能性も考えられます。ネズミのふんを見つけたということは、あなたのキッチンが、いつ食中毒の発生現場になってもおかしくない、危険な状態にあるということを意味します。たかが小さな黒い粒と侮ってはいけません。その一粒が、家族を苦しめる、深刻な食中毒の引き金になるかもしれないのです。
サルモネラ症とねずみのふんの危険な関係