庭先や公園で、ゆっくりと進むカタツムリと、にゅるりと這うナメクジ。この二つの生き物は、一方は可愛らしいキャラクターとして親しまれ、もう一方は不快害虫として忌み嫌われるという、全く対照的なイメージを持たれています。しかし、この両者が、実は生物学的に見て、非常に近しい関係にある「親戚」であるという事実を、ご存知でしょうか。その関係性を知ることは、ナメクジという生き物への理解を、少しだけ深めてくれるかもしれません。結論から言うと、ナメクジは「殻を失った、あるいは退化させたカタツムリ」である、と表現するのが最も的確です。どちらも、生物の分類上は、「軟体動物門 腹足綱」に属する、陸生の巻貝の仲間です。つまり、彼らの祖先は、同じ巻貝の仲間から分かれて、それぞれが陸上での生活に適応するように、独自の進化を遂げてきたのです。カタツムリは、外敵からの防御や、乾燥を防ぐためのシェルターとして、立派な殻を背負い続ける道を選びました。この殻のおかげで、彼らは比較的開けた場所でも活動することができます。一方、ナメクジの祖先は、ある時点で、この重くてかさばる殻を「捨てる」という、大胆な進化の選択をしました。殻を失ったことで、彼らは、カタツムリでは到底入り込めないような、石の下や、土の中のわずかな隙間、あるいは分厚い落ち葉の下といった、より狭く、湿ったニッチ(生態的地位)へと、その活動範囲を広げることに成功したのです。つまり、ナメクジは、カタツムリの「家出をした親戚」のような存在なのです。その証拠に、一部のナメクジ(コウラナメクジなど)の体内には、かつて殻があった名残として、小さな貝殻の痕跡が残っています。また、どちらも湿った環境を好み、夜行性で、植物などを食べる食性や、雌雄同体であるという繁殖戦略など、多くの共通した特徴を持っています。殻があるか、ないか。そのたった一つの違いが、彼らの見た目や生態、そして人間からの評価を、大きく分けてしまったのです。次にナメクジを見かけた時は、少しだけ、その背中に見えない殻を背負った、カタツムリの姿を想像してみてはいかがでしょうか。ほんの少しだけ、その存在が違って見えるかもしれません。