夏の終わりから秋にかけて、ふと網戸や窓ガラス、あるいはベランダに干した洗濯物に、緑色や白っぽい、小さな粒々が、まるで幾何学模様のように整然と並んで産み付けられているのを見つけたことはありませんか。その、どこかSF的ですらある、奇妙な物体の正体、それは「カメムシの卵」である可能性が非常に高いです。カメムシというと、多くの人が、あの独特の強烈な悪臭を放つ成虫を思い浮かべるでしょう。その卵が、私たちの生活空間のすぐそばに、ひっそりと産み付けられているのです。カメムシの卵は、その種類によって色や形が異なりますが、多くは直径一ミリ程度の、丸い樽型や円筒形をしています。色は、乳白色や淡い緑色、黄色などが一般的で、産み付けられてから時間が経つと、中の幼虫の目が透けて見え、黒い点々が現れることもあります。そして、彼らの産卵方法の最大の特徴は、一個ずつバラバラに産むのではなく、十数個から数十個を一つの「卵塊(らんかい)」として、きれいに並べて産み付けることです。この整然とした並び方が、他の虫の卵とは一線を画す、カメムシの卵のトレードマークと言えるでしょう。では、なぜ彼らは網戸や洗濯物といった、一見すると奇妙な場所に卵を産むのでしょうか。それは、孵化した幼虫が、すぐに餌となる植物にありつけるようにという、親心からです。カメムシの幼虫は、植物の汁を吸って成長します。網戸やベランダは、庭や近くの公園の草木に近い場所であり、かつ雨風をある程度しのげるため、彼らにとって好都合な産卵場所となるのです。もし、カメムシの卵を見つけたら、絶対にやってはいけないことがあります。それは、「指で潰す」ことです。卵の中にも、成虫と同じ悪臭成分が含まれているため、潰すと強烈な匂いが指に付着し、なかなか取れなくなってしまいます。正しい対処法は、ティッシュペーパーなどでそっと卵塊ごと掴み取るか、あるいはガムテープなどの粘着テープに貼り付けて、そのままビニール袋に入れて捨てることです。硬いカードのようなもので、削ぎ落とすように取るのも有効です。この小さなつぶつぶは、数日後には、小さなカメムシ軍団へと姿を変える、静かなる脅威なのです。