家にネズミが侵入したことを示す、最も確実で、そして最も不衛生なサイン、それが「ネズミのふん」です。多くの人は、その小さな黒い粒を、単に「汚いもの」として認識するかもしれませんが、その背後には、私たちの健康を深刻に脅かす、目に見えない多くの危険性が潜んでいます。ネズミのふんは、単なる排泄物ではなく、様々な病原菌やウイルスを内包した、極めて危険な「感染源」となり得るのです。ネズミが媒介する病気は、世界中で数十種類が知られており、日本国内で特に注意が必要なものも少なくありません。その代表格が「サルモネラ症」です。サルモネラ菌に汚染されたネズミのふんが、キッチンカウンターや食器、あるいは食品そのものに付着し、それを私たちが知らず知らずのうちに口にしてしまうことで、激しい腹痛や下痢、嘔吐、発熱といった、深刻な食中毒症状を引き起こします。また、特にドブネズミの尿やふんから感染する可能性があるのが「レプトスピラ症」です。これは、黄疸や出血、腎機能障害などを伴う重篤な感染症で、最悪の場合、命に関わることもあります。さらに、ネズミのふんが乾燥して砕け、その粉塵を吸い込んでしまうことで感染するのが「腎症候性出血熱(ハンタウイルス肺症候群)」です。発熱や頭痛といった初期症状から、急激に腎不全や出血傾向が進行する、致死率の高い危険な病気です。これらは、感染のメカニズムが異なるだけで、その根源はすべてネズミの排泄物にあります。そして、危険は病原菌だけではありません。ネズミの体には、「イエダニ」や「ノミ」といった吸血性の寄生虫が潜んでいることが多く、これらの寄生虫やそのフンもまた、アレルギー性皮膚炎や喘息といったアレルギー疾患の悪化を招く原因(アレルゲン)となります。ネズミのふんを一粒見つけたということは、これらの多様な健康リスクが、すでにあなたの生活空間に持ち込まれてしまったという、明確な警告なのです。その小さな黒い粒を、決して軽視してはなりません。
ねずみのふんが引き起こす病気と健康リスク